雪ニセコ 北海道アートコレクション

周囲の山々への深い畏敬の念とこの場所に対する特別な想いを生み出すホテルでありたい――このビジョンのもとに雪ニセコは「雪月花」をコンセプトとし、和の意匠と現代的なラグジュアリーが美しく融合する空間をデザインしました。

北海道の四季折々の美しさと見事に重なる「雪月花」という言葉は、文字どおり「雪」「月」「花」を意味しており、有名な中国唐代の詩人、白居易の詩から引用したものです。この詩は中国や日本で広く親しまれており、「雪月花の時 最も君を憶(おも)ふ」とあるように、愛する人とともに過ごした懐かしい思い出を詠んでいます。

館内では雪ニセコのビジョンに即したさまざまなアート作品に出合い、地元を代表するアーティストの目を通して北海道の美しい風景や自然をお愉しみいただけます。アイヌコミュニティの豊かな伝統の技、鮮やかな筆さばきの書、息をのむほど美しい北海道の景色や日本文化を見事に切り取った写真、独特のダイナミズムを感じさせる現代彫刻など、絵画から彫刻、書、写真まで幅広いジャンルと素材を網羅しています。

雪アートマップを利用して、ホテル館内のアーティストによる作品をお楽しみください。

アーティスト:名和晃平 KOHEI NAWA

作品:PixCell-Deer#66 / エゾシカ(北海道のシカ) 2021年

展示場所:雪ニセコレセプション

1975年、大阪府に生まれた名和晃平は領域を横断するアーティストとして、細胞のようなパーツが集結して複雑で動的な構造が生まれる多様な彫刻作品を制作し、仮想および物理的な空間の認識や自然と人工性、単体と全体の関係性を探究し続けています。グローバリズムと高度情報化の波を受けてスタートし、高く評価された《PixCell》シリーズは、デジタルカメラのレンズとそれを通して情報化される物体との相互関係を反映しながら、ものの表皮のリアリティを問いかける視触覚的な体験を生み出します。対象となる物体の表面をガラスビーズや透明なプリズムで被膜することによって、さまざまに拡大・歪曲した図像が浮かび上がります。ちなみに「PixCell」とは「Pixel(画素)」と「Cell(細胞)」を組み合わせた造語です。

《PixCell》シリーズの代表作である《PixCell-Deer》は、ネットで購入した動物の剥製を透明な球体で覆うシリーズのなかでも最も有名な作品です。大小の球体(セル)で全体を覆うと、その表皮は個々のセルに分割され、拡大・歪曲するレンズを通して物体を「鑑賞」できます。このプロセスを経て「物体そのものの存在が『光の殻』に置き換わり、『映像の細胞』という新たなビジョンが提示される」というわけです。

シカは古代日本の神話を象徴する動物であり、野生のシカは日本全国に生息しています。シカを「自然の使者」「神の使い」と考える者の前には聖なるシカが姿を現すと信じられており、聖なるシカは日本の神社の図像にも描かれています。現在、日本では地球温暖化や限界集落化の影響でシカやイノシシが増えすぎ、農業にダメージを与えていますが、名和は「それでもこの動物が自然の使者であることに変わりはない」とし、その悠然とした佇まい、均整のとれた体躯、どことなく無表情な顔つきになんともいえない魅力を感じています。 1999年にアーティストとしてのキャリアをスタートして以来、SCAI THE BATHHOUSE(スカイザバスハウス)、Pace Galleryほか、世界各国のさまざまな美術展に参加する一方、2009年にはスタジオ「Sandwich」を創設し、ジャンルにとらわれないデザインプロジェクトを展開しています。

アーティスト:貝澤徹 TORU KAIZAWA / 貝澤守 MAMORU KAIZAWA

アイヌ文化発祥の地であり、アイヌの伝統が色濃く残る北海道平取町二風谷。アイヌ語では「ニプタイ」といって「木の生い茂るところ」を意味します。その名のとおり、四季折々の表情を豊かに映す沙流川流域に広がる美しい森です。自然を尊び、自然とともに生き、自然から学ぶ二風谷アイヌの精神は、現在まで脈々と受け継がれています。神々に祈るアイヌの儀式や祭り、アイヌの舞踊、アイヌの生活用具、工芸品の技術、アイヌ独自の文様など、アイヌの伝統は何世代にもわたって大切に伝えられてきました。こうしたアイヌの伝統は「北海道文化遺産」とされ、代表的な工芸品である「二風谷イタ」(盆)と「二風谷アットゥシ」(樹皮の反物)は経済産業省の「伝統工芸品」に指定されています。貝澤徹と貝澤守は、いずれも北海道アイヌアートを代表する名工です。

北海道二風谷に生まれた貝澤徹は、工芸家の父(勉)や弟(幸司)、その仲間の職人たちに囲まれて育ちました。曾祖父の貝澤ウトレントクは明治時代にアイヌの名工と称された二人のうちのひとりで、曾祖父から受け継いだ伝統を大切にしながら、独自の感性と技術を織りまぜ、個性的でメッセージ性の高い、独創的なアイヌアートを精力的に生み出しています。「北海道アイヌ伝統工芸展北海道知事賞」ほか、数多くの賞を受賞しており、大英博物館をはじめ世界中の美術館、博物館で作品が展示されています。

貝澤守もまた木彫職人に囲まれて育ち、父(守幸)や先人の味わい深い技が生きる二風谷イタ(盆)の伝承に努めながら、独自の作品づくりに取り組んでいます。特に有名なのは繊細な彫り込みを特徴とするラムラムノカ(ウロコ文様)で、手がけた「二風谷イタ」(木製の盆)は2013年に北海道で初めて経済産業省の「伝統工芸品」に指定されました。

作品:   イタ(盆) ITA

トゥキ(杯) TUKI

イクパスイ(捧酒箸) IKUPASUY

展示場所:アートスペース(アンヌプリブロック)

《二風谷イタ》は北海道の沙流川流域に古くから伝わる木製の浅く平たい形状の盆で、渦巻きを模した「モレウノカ」、魚のウロコを模した「ラムラムノカ」といったアイヌ文化独特の文様が掘り込まれています。

《トゥキ》は「杯」を総称するアイヌ語です。この漆器は祭具として代々受け継がれ、重要な祭祀儀礼の場で使用されます。

《イクパスイ》は祭祀用の木彫の箸で、中央部に動物や花のモチーフ、抽象的な意匠をあしらった装飾が施されています。両端には持ち主の父系のしるし(家紋)が刻まれ、裏面にはたいてい「シロシ」というシャチなどのシンボルが彫り込まれています。尖ったほうの先端を「舌」といい、この部分を酒に浸け、その雫を垂らしながらカムイに祈りの言葉を届けます。

アーティスト:久保奈月 NATSUKI KUBO

1984年、北海道共和町に生まれた久保奈月は、7歳から大書家佐藤瑞鳳に師事し、2012 年より札幌に拠点を置き、コンテンポラリーパフォーマンスという枠組みで書の伝統を生かす活動を展開しています。北海道のみならず米国でも有名なその書道パフォーマンスは、舞や音といった多様な演劇的要素を取り込み、衣、光、食とのコラボレーションを展開するなど、伝統的な書という芸術を新しいスタイルで追求することに重きを置いています。

2019年に月形町に移住してからは、日常の何気ないことや北海道の広大な自然からインスピレーションを受け、よりシンプルな作風や幾何学的なフォルムへと傾いていきます。日常からインスピレーションを得たことが明らかな作品といえば、雪ニセコが所蔵する《△□◯》で、これは山登り、四角い家、嫁ぎ先の米農家で食べた美味しいバクダンおにぎりにインスパイアされて制作したものです。また、自身の名前の一部でもある「月」が創作活動に大きな影響を与えており、月にインスパイアされた作品群が生まれ、当館のコンセプトである「雪月花」とのシナジーも生まれました。雪ニセコが所蔵するこの作品は、4種類の「月」という文字で満ち欠けを表現し、輝かせています。

北海道ならではの植物でつくった手漉き和紙も有名で、雪ニセコの比羅夫ロビーには北海道の広大な風景にインスパイアされた2つの大作が展示されています。《大地》 という作品は薄墨などで「土」を描き、木々や大地のパワーを表現しており、《草原》では北海道の手つかずの自然のなかで、さまざまな字体の「草」という字がそよ風に吹かれ、ゆらゆら踊っているように見えます。

羊蹄ブロックのアートパッサージュに展示されている彫刻作品は、飛ぶ鳥を静謐に再現しており、書と通底するところがあります。《渡鳥》という単像は毎年春になると自宅前の田んぼに飛来する白鳥にインスパイアされた作品であり、《白鳥の舞》は白鳥たちが生き生きと舞うように田んぼを飛び交うシーンを表現しています。

雪ニセコが所蔵する久保奈月の作品

素材:墨、和紙、ほか?(作品に使用した素材はほかにもある)

作品:◯ 2019

展示場所:アートスペース(アンヌプリブロック)

作品:月の満ち欠け WAXING AND THE WANING OF THE MOON 2022

展示場所:アートスペース(アンヌプリブロック)

作品:草原 FIELD OF GRASS 2022

展示場所:比羅夫IIロビー

作品:大地 THE EARTH 2022

展示場所:比羅夫IIロビー

作品:白日 bright sun

展示場所:雪ニセコ ペントハウススイート

素材:鉄

作品:渡鳥 MIGRATORY BIRD 2020

展示場所:アートスペース(羊蹄ブロック)

作品:白鳥の舞 DANCE OF THE SWAN 2022

展示場所:アートスペース(羊蹄ブロック)

Yアーティスト:荒野洋子 YOKO ARANO

荒野洋子は1934年、北見市に生まれた書家で、北海道が生んだ最も才能あふれる伝説的アーティストのひとりとされています。書歴は約60年に及び、日本各地で数えきれないほど多くの作品展を開催してきました。「漢字」には一つひとつ意味があり、2つ、3つと組み合わせることによって新たな意味が生まれます。幼いころから書を愛し、その情熱は揺るがず、満足することを知りません。年齢を重ねてもなお、力強く、壮大な筆致が冴えわたります。

北海道の暮らしには雪が付きもので、膠や墨には適温があるため氷点下5度以上でないと書けませんが、雪は人々の暮らしをやさしく受け入れ、見守ってくれるものだといいます。雪ニセコのメインレセプションを飾る《六華煌》という作品はひときわ印象的で、降り積もる雪が朝日を浴びてきらめく様を表現しています。北海道の美しい自然の風景にインスパイアされた多くの作品のなかから、いくつかを羊蹄ブロックのアートパッサージュに展示しました。《鵠》は白鳥が飛び立つ瞬間に舞い上がる美しいしぶき、《跳》は野生のキツネやウサギ、テンが新雪と戯れ、雪を頂いた山のなかで飛んだり跳ねたりするシーン、そして《雲海》は山頂から眺める、息をのむほど美しい雲海の下に人の存在や暮らしが見え隠れする様子をそれぞれ表現しています。

雪ニセコが所蔵する荒野洋子の作品

素材:墨、和紙

作品:六華煌 GLITTER OF SNOW 2022

展示場所:雪ニセコ レセプション

作品:鵠 SWAN 2019

展示場所:アートスペース(羊蹄ブロック)

作品:跳 OVERJOYED 2022

展示場所:アートスペース(羊蹄ブロック)

作品:雲海 SEA OF CLOUDS 2022

展示場所:アートスペース(羊蹄ブロック)

作品:海 sea 2022

展示場所:温泉ラウンジ

作品:

 Promise

 FLOWER

 truth is only one

歓 welcome  

崖 cliff  

展示場所:雪ニセコ ペントハウススイート

アーティスト:川上りえ RIE KAWAKAMI

川上りえは主に金属彫刻に取り組み、世界中で個展を開いていますが、制作活動の拠点は石狩市にあります。その作品は人智を超えた自然の時間軸やパワーに対する畏敬や畏怖、神秘性を表現しており、主に鉄を使用した彫刻、インスタレーション、サイトスペシフィックアートを通じて、物体や空間に内在するエネルギーを視覚化しています。

《高地I》は高台から巨大なカルデラを見下ろし、胸がいっぱいになった忘れがたい経験から生まれた作品です。ステンレスの薄板の歪みや輝き、透かし彫りによって柔らかく、ゆったりとしたエネルギーの動きを再現しています。地球は偉大な母なる自然の一部として進化し続けているという認識に立ち、《隆起I》では地殻の隆起によって自然の地形が形成されたように、地球の内外に生じる動きは止めようがないことを表現しています。

雪ニセコが所蔵する川上りえの作品

素材:ステンレス

作品:隆起I UPLIFT I 2019

展示場所:アートスペース(アンヌプリブロック)

作品:高地I PLATEAU I 2019 

展示場所:アートスペース(アンヌプリブロック)

アーティスト:杉原信幸 NOBUYUKI SUGIHARA

環境芸術家の杉原信幸は1980年、長野県に生まれました。旅を栖(すみか)とし、世界各地に滞在して創作活動を行い、文化を研究しています。旅を通じて、さまざまな土地やそこに住む人々が育んできた文化に触れ、その驚きから表現が生まれます。貝殻や石、木、土、草、縄、網、布といった自然の素材にこだわってつくり上げた舟形や円形の空間インスタレーションは、神秘的な原始の力を彷彿とさせ、さながら古代文明遺跡のようです。自然に真摯に向き合うと原始的な感覚が呼び起こされ、そのとき自然にわき上がるものこそが美であり、アートはそれを表現する手段のひとつだと考えています。

アイヌ語で「チプ」は舟、「イランカラプテ」は来客をもてなす挨拶を意味します。《貝殻の舟》という作品には「あなたの心に触れさせてください」という意味が込められています。

作品:貝殻の舟―チプ・イランカラプテ THE SHIP OF SHELLS – cip irankarapte

展示場所:ラウンジバーPark90

アーティスト:谷田洋史 HIROSHI TANITA

展示場所:雪ニセコのエレベーターロビーおよび雪ニセコ ペントハウススイート内のファインアート写真コレクション

1977年生まれの谷田洋史は、2012年より北海道の風景を中心に写真を撮り続けています。「paradise on EARTH "Hokkaido"(地上の楽園 北海道)」をテーマに、四季折々の美しい北海道の大地をダイナミックかつ繊細に表現しており、「ソニーワールドフォトグラフィーアワード2017自然風景部門」「2017ナショナルジオグラフィック・トラベル・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー エディターズフェイバリット」「東京インターナショナル・フォト・アワード(TIFA)2018自然部門金賞」ほか、数多くの賞を受賞しています。

アーティスト:アーロン・ジャミエソン AARON JAMIESON

作品:雪ニセコスイート内の500点を超えるモノクロファインアート写真コレクション

アーロン・ジャミエソンはオーストラリア出身の写真家で、2006年に日本の北にある島「北海道」を訪れ、一瞬にしてそこに住む人々、四季折々の自然、未知なる魅力の虜になりました。北海道の隅々まで足を運び、数々のブランドやスポンサーのための映像または写真プロジェクトを展開しています。各地の独特の風景に魅力を感じ、カメラを手に世界を探検しており、Australian Geographicの契約エクスプローラー、フォトグラファー、ライターとして、オーストラリア、アイスランド、パタゴニア、グリーンランドといった辺境の寒冷な山岳地帯を歩いた経験もあります。

ニセコを拠点とし、自宅があるヒラフ地区のギャラリーで過ごす日もあれば、写真と冒険を求めて北海道各地を飛び回る日もあり、地球上で最も感動的な、見たことのない風景を求めてアート写真に取り組み続けています。雪ニセコのスイートを飾る写真には、何週間もの間、北海道の最果ての地、極寒の地を駆け巡り、そこで出合ったさまざまな風景が収められており、ジャミエソンの情熱に触れることができます。

雪ニセコが所蔵するモノクロのファインアート写真は500点を超え、その土地ならではの風景や四季折々のシーンを切り取った小品シリーズに分かれています。北海道の広大な凍てつく風景のなかで自然が生み出す繊細な色をとらえたシリーズもあれば、日本の文化遺産を鮮やかに写しとった、質感のある写真でジャミエソンの旅を追体験できるコレクションもあります。モノクロ写真はいずれも手漉き和紙に印刷されており、伝統の技で丹念に手で漉いた和紙を使用するため、同じ写真は二つとありません。

アーティスト:シーズン・ラオ SEASON LAO / 劉善恆

作品:雪ニセコペントハウススイート内の手漉き和紙に印刷した写真コレクション

日本に拠点を置くシーズン・ラオは1987年、マカオに生まれました。初期の作品集『百年菉荳圍 Pateo do Mungo』では、生まれ故郷の街のアイデンティティを探求し、表現した結果、取り壊しの対象とされていた建造物に人々の注目が集まり、歴史的価値が認められて街並みの保存に至りました。23歳で北海道に移住し、東日本大震災をきっかけに人と自然が共存する道を探る必要性を強く意識するようになり、東洋美術の精神性を取り入れながら、グローバリズムの社会問題に思いをはせる作品づくりを続けています。日本、中国、米国、イタリア、スイス、シンガポール、台湾などに多数のコレクションがあります。

アーティスト:前澤良彰 YOSHIAKI MAEZAWA

作品:雪ニセコペントハウススイート内の写真コレクション

京都に生まれ、1980年より札幌に在住する前澤良彰は、北海道の豊かな自然と急速に都市化が進む札幌に魅せられ、北海道の自然を撮り続けている写真家です。風景が醸し出す繊細なニュアンスをとらえた写真からは、緑の深さや湿度、流れている空気まで感じられます。