楽器のチューニングの音色が静かに響く午後。雪ニセコの中庭が、特別な野外ステージへと姿を変えました。2025年7月18日から20日まで開催された「ニセコジャズフェスティバル」は、昨年をさらに上回るスケールで華やかに開催され、全12組の実力派アーティストによる多彩なステージが繰り広げられ、洗練されたジャズの音色と、ニセコの清々しい夏の空気が調和する特別な週末となりました。ご滞在中のお客様はもちろん、地元の方や日帰りの来場者の皆さまにとっても、忘れられないひとときになったのではないでしょうか。
浅利史花カルテット
Day 1:スウィングで始まる金曜日
地元バンド「Ree Band」オープニングアクトを務め、心地良いグルーヴで会場を温めてくれた後、「浅利史花カルテット」が登場。雨のフル肌寒い天気に寄り添うような、温かくメロディアスなギターの音色が印象的でした。現代ジャズの魅力が詰まった、構成の美しい即興性が光るステージとなりました。
夕暮れが深まる頃、「馬場智章とStory Teller feat. Marty Holoubek & 渡辺翔太」が登場。馬場さんのテナーサックスは夏のさわやかな風のように広がり、昨年に引き続き再登場となったMartyのベースと、渡辺さんのピアノによるリズムがその音色を彩りました。途中から、2日目に出演予定の広瀬未来さん(トランペット)がサプライズで加わり、翌日のステージへの期待を高める特別なセッションとなりました。
智章馬場
ケイコ・リー
そしてクライマックスは、昨年の感動が記憶に新しい、待望の再登場となたジャズシンガー、ケイコ・リーさん。昨年に引き続きのパワフルなボーカルとともに、世界中の名曲を取り入れたセットリストは、雨の夜に一層に心に響き、会場は完全に魅了されました。シンディ・ローパーの「Time after Time」や、The Crusadersの「street Life」、そしてビートルズの「Let It Be」。会場全体で歌詞を口ずさみ、最後は拍手と歓声が鳴りやまぬフィナーレに。雨の中で聞くケイコ・リーのソウルフルな歌声は、むしろ特別な一夜を演出していました。
ステージの後、ケイコ・リーさんは「天気は良くなかったけど、お客様もスタッフの皆さんも本当に温かくて、素晴らしい時間を過ごせました。」と語ってくれました。
Day 2:ラテンの風とブラスの炎
土曜日は深みのあるピアノの旋律でスタート。「白木茂カルテット」は、倶知安ジャズフェスティバルにも関わってきた白木さんのピアノが印象的。静かでいて心に響く旋律が会場を包み込みました。
続いて登場したのは「玉川健一郎クインテット」。玉川さんのボーカルがリズムに乗って高らかに響き、メンバー同士のインタープレイは軽快で、観るものすべてにジャズの楽しさを伝ええるパフォーマンスでした。
続く「関西ジャズクルー」は、名プレイヤーたちによるアレンジと情熱的なソロの応酬に、観客も自然と身体を揺らす、スウィング感満載のセット。昨年も出演した人気トランペッター・広瀬未来さんのソロは、この日も圧巻でした。
白木茂カルテット
玉川健一郎クインテット
関西ジャズクルー
夜のフィナーレは「オルケスタ・デ・ラ・ルス」。グラミー賞ノミネート歴を持つこのラテンジャズバンドが登場すると、中庭は一気に情熱的なダンスフロアに変身。陽気なパーカッションとリズミカルなサウンドに誘われ、観客は手を叩き、サルサステップを踏む、高揚感あふれる時間となりました。
「観客の皆さんから、ありがたい熱いエネルギーを感じました。すごくうれしかった。雨の中でも、皆さんが踊って楽しんでくれて、私たちもすごく興奮して、本当に楽しかった。」とボーカルのNORAさん。
「Mi Alma」や「Volare」など、誰もが手を叩き、踊りたくなるセットリストで、会場は最後まで大盛り上がり。「このニセコジャズフェスティバルは、ジャズを題材として音楽の深いところまで聞いてくれる音楽ファンが集まっている。ミュージシャンとしては、全力で演奏できる環境ができていて感謝、また戻ってきたいです。」と語ってくれました。
オルケスタ・デ・ラ・ルス
Day 3:受け継がれる情熱と未来の才能
最終日、スタートを飾ったのは「MT.ようていジュニアジャズスクール」。若きプレイヤーたちが堂々とスタンダードナンバーを披露し、地域のジャズ文化がいかに大切に育まれているかを実感させるステージとなりました。
続いて、ドラマー江藤良人さんがトリオを率いて昨年に続き再登場。トランペッター類家心平さんとの共演は、江藤さんの力強くも繊細なドラムと、類家さんのリリカルなトランペットが、トリオの豊かなリズムとともに奥深い音の世界を描き出しました。
「井上銘Tokyo Quartet」は、現代ジャズの新しい可能性を感じる贅沢なステージ。井上さんの繊細なギターのメロディに、ピアノにはDavid Bryant、ベースにはMarty Holoubek(3日間連続出演)、ドラムには石若駿と、才能が美しく融合した贅沢なひとときでした。
MT. ようていジュニアジャズスクール
類家心平
井上銘Tokyo Quartet
大トリは、ブルーノート東京との特別コラボで登場した「アンドレア・モティス デュオ featuring ジョゼップ・トラヴァー」。アンドレアの透明感ある歌声とトランペット、ジョゼップのギターが優しく織りなす夢のようなセット。Joan Manuel Serratの「Mediterráneo」を母に捧げた選曲も心を打ちました。
「今日のハイライトは、松原みきさんの「真夜中のドア~Stay With Me」を飛び入りで演奏できたこと。井上さんやMartyと即興で共演できたのは本当に刺激的でした。」と語ったアンドレア。最後は、江藤良人トリオと井上銘Tokyo Quartetのメンバーも加わり、即興ジャムセッションが繰り広げられました。音と夜風が混ざり合い、まさに音楽、光、心がひとつになった美しい締めくくりでした。
アンドレア・モティスデュオ featuring ジョゼップ・トラヴァー
音楽だけじゃない、五感で心を満たす体験
今回心動かしたのは演奏だけではありません。会場には、豊富なフードやドリンクが並び、法善寺三平の焼きそばや、鮨加藤の蟹タコス(フェス限定メニュー)クラフトソーダ、北海道産スパークリングワインなど、夏を楽しむことができました。一般チケットから宿泊パッケージまで用意され、家族連れも楽しめる温かな雰囲気で、2025年のフェスティバルは今後の発展に向けた確かな一歩となりました。
「将来的にはこのニセコジャズフェスティバルを国際的なイベントに育てたい。そしてグリーンシーズンのニセコを、もっと多くの方に知っていただきたい。」「言葉は違っても、音楽、特にジャズはみんなが通じ合える言語です。」とフェスティバル実行委員長であり、SCグローバルの創設者であるサイモン・チョン氏は語ります。
雪ニセコにとってこのフェスティバルは、単なる音楽イベントではなく、人との出会い、共に時間を分かち合える「場」を生み出すもの。家族、友人、そして初めてジャズに触れる方々も、誰もが心から楽しみ、回を重ねたこのフェスに「ただいま」と思えるような週末でした。



