「雪ニセコの旅」第 5 弾 - 内田淳さんインタビュー

  • 文 Sirada

雪ニセコのルームインテリアを手がける、フィールドフォー・デザインオフィスのシニアバイスプレジデントで、インテリアデザイナーの内田淳さんにお話を聞きました。フィールドフォー・デザインオフィスは、東京を拠点に、インテリアデザインを中心に活動しているデザイン事務所です。創造力を発揮する場を創出し、豊かな世の中をつくり出すことを望み、デザインの力で未来に変化をもたらすことを目指しています。

雪ニセコのプロジェクトではどのような ビジョンがありましたか? 

現在の日本には海外の優秀なデザイナーの手によるコンテンポラリーで日本的なホテルが数多く存在しています。私たちが気に留めていなかった、多くの「日本的」なデザインに気付かされます。 今回の雪ニセコのプロジェクトでは「海外のゲストに向けて、私たち日本のデザインチームがデザインする、コンテンポラリーで日本的なデザインを実現する」ことを目指しました。 

SCグローバルから北海道での初海外プロジェクトを依頼されたときは驚きましたか? 

たいへんな驚きです。 SCグローバルの高品質の開発事例を目にして、私たちのベスト以上のもので返さなくてはと覚悟しました。日本で、海外のお客様に向けて、海外のオーナーと共に、日本のインテリアデザイナーによる、プロジェクトというチャレンジャブルな機会を頂きましたSCグローバルに感謝いたします。 

唐王朝の詩、『雪月花』が初期のデザインビジョンに大きな影響を与えたと理解しています。このインスピレーションについて詳しく教えてください。 

インテリアデザインがスタートする5年前の夏、初めてニセコを訪れた日の夜半、羊蹄山を照らす月が特別なものに見えました。その時に、特別な力で人と自然が結ばれているという日本の感覚をデザインしたいと考えました。 

日本には古より、自然をいつくしむ感性があります。 自然を愛でるだけではなく、怖れ、敬い、日本人の人生観や信仰に大きな影響を与えてきました。 

尊い自然の姿に人生を重ねる言葉も多く残されています。花鳥風月、白砂青松、山紫水明、・・・・ 中国唐代の詩、雪月花『雪(冬)、月(秋)、花(春)の美しい四季折々の景色に君を想う』も日本に伝わり、様々な歌人に歌い継がれ、日本人の美意識を表す言葉となりました。 ニセコの美しい雪、月、花にあなたを想う・・・ 人と自然の交わり、人と人の交わりを尊ぶ雪ニセコにこれ以上のコンセプトは無いと思いませんか? 

デザインや雪ニセコについて語るとき、いつもSense of place (土地の持つ記憶や場の履歴)の重要性について語りますが、雪ニセコのデザインについて詳しく教えてください。 

Sense of placeを語る時、多くの場合はアートやオブジェクトや素材に土地との関連を求めます。 勿論、これらのことも重要でありますが、今回は羊蹄山(雪にかすむ羊蹄山、凍てつく月に照らされる羊蹄山、新緑に輝く羊蹄山・・・)やその周りの自然が、最大のSense of placeであると考えました。 

外の景色との一体感が感じられる宿泊体験、これが私たちが求めたものです。 

縁側 

ゲストルームの窓下の部分は部屋の端から端まで連続する窓台ベンチ、窓上は庇状の下がり天井としました。これは日本の住まいの外周部にある縁側と屋根裏のアナロジーです。縁側は床の延長となり、下がり天井は天井の延長となり、床と天井の間がすべて開かれた景色となります。縁側は室内と外部の中間領域となって、一層、景色を身近なものと感じることになります 

低重心・水平基調のデザイン 

日本の空間は通常、畳に座っている人の目線の高さを基準にデザインされます。低い高さにアイキャッチや光を集めてデザインの重心を下げ、高さ方向の解放感を生み出します。水平基調のデザインが重心の低さを強調します。今回、すべての客室に低重心・水平基調のデザインを適用しました。日本間でくつろいでいるような体験や日本的なトリミングをされた景色を楽しんでいただきたいと思います。 

景色を生かすためのインテリア 

インテリアは素材を減らし、包み込まれるような統一感のある色調、控えめなコントラスト、柔らかな間接照明を多用しています。抑制されたインテリアによって、刻々と変化する外の景色が一層映えます。家具のレイアウトも可能な限り外に向けられています。 

雪ニセコで気に入っているデザインエレメント/デザインポイントはどこですか? 

上記4でも述べた 縁側のデザインです。 縁側は室内と外部の中間領域ですが、日本の家屋がそうであるように、ホテルライフの場にしたいと考えました。 

窓台にはデイベッドを組込み、そこでくつろぐと自分と羊蹄山との間に何もない一体感を感じることができます。寝転んで本を読めるように窓台の下は書架になっています。中庭側の部屋では雪見障子越しに中庭の四季を眺めることができます。・・・と部屋の中で一番魅力的な場所としてデザインしました。 

このプロジェクトに取り組む際の最大の課題は何でしたか? 

優れた建築計画とロケーションに恵まれたプロジェクトでした。 課題は、ワールドワイドなホスピタリティと、「日本的な空間でくつろいだ」体験の両立です。日本的なデザインのために海外のゲストに我慢を強いる空間ではなりません。伝統的な旅館のデザインとも、現代的な空間に日本的な要素を散りばめることとも異なる方法が必要でした。 

私たちが感じる日本的なデザインの意味や成立ちを理解する、その後、そのスピリッツをコンテンポラリーなデザイン手法で表現する という方法でデザインしました。 

あなた方のチームは多くのホテルプロジェクトに取り組んでいますが、それぞれのプロジェクトが 特別でユニーク(唯一)なものになるようどうしていますか? 

デザインを始める前の空間が持っているポテンシャルとウィークポイントを注意深く読み解きます。 

ポテンシャルを最大限に活かすことは自明ですが、ウィークポイントが欠点ではなくてその空間だけが持つキャラクターに昇華できれば、他には無いユニークな空間になると考えています。 

過去または現在のデザイナー/建築家で最も尊敬している方はどなたですか? 

かつては いろいろな海外のデザイナーや建築家に憧憬を抱いてデザインしました。 やがて、自分のルーツ(日本の自然や文化)に根差したデザインでないと通用しないことが理解できました。尊敬している方は、自分のバックボーンに根差しながら現在と未来のデザインに取組まれている方々です。 

雪ニセコは、2021年度のPropertyGuru Regional Awardsでベストコンドインテリアデザイン(アジア)を受賞しました。あなた方のチームは驚きましたか?またこの受賞に対してチームはどのように感じましたか? 

たいへんな驚きであるとともに名誉なことと感じました。ありがとうございます。 私たちは国内の賞は受賞してきましたが、国際的なアワードはほとんどありません。 今回のプロジェクトを通じて、私たちのデザインが世界と繋がっているのだと再認識いたしました。 今後は今以上に海外への発信を強めたいと考えています。 

8月12日のプレオープンまで3日間となりました。雪ニセコで皆様をお迎えできますことを楽しみにしております。

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